異変
ある朝、目が覚めると、世界が違っていた。どこが違うと指摘することは出来なかったが、僕の本能はこの世界が偽物で、僕本来が暮らしていた世界ではないと、大きな警告音を立てていた。
不審な気持ちのまま、着替えて、顔を洗う。鏡の向こうには、見なれた僕の顔と、おなじみの馬鹿げた意匠(これはママの趣味だ)の壁紙。
朝ご飯のトーストも、それに塗られているバターとジャム、マーマーレードの味も、色も、香りも、テーブルの向こうで不機嫌な皺を額に浮かべているママも、テーブルも、ダイドコロも、窓の向こうの景色も、2枚目のトーストを半分呑み込んだところで、家を出なければ、遅刻する時間になったのも、昨日までと同じ。
本能が告げているのは何なのか?
そんなことを考えていたら遅刻した。考えていたことは、違ったが、それ以外は昨日までと同じ。
結局、またもやクラス中の笑い物にされて、一日が始まった。
クラスルームが終った時点で、昨日の時間割のままの教科書とノートを持ってきたことに気が付いたが、これも、ヤッパリ、昨日までと変らない。
授業は、退屈、これもやっぱり昨日までとおんなじ。
目に見えて変ったと思えることなど、全然無い。何かの本で見た、コップの上の円をグルグル廻る毛虫とおんなじ様に、いつもと同じパターンから、一歩も踏み出すことなく、グルグルおんなじ生活を繰返すだけ。と、いうことは、僕は毛虫と同じか? 本能だけが、相も変らず何かが違うと警告と注意を呼びかけている。
本能が、昨日までとは違ったということを本能が警告しているのか? だが、まてよ、違っていると告げているのは本能で、本能が告げているのが本能が変ったということなら、なんか、頭の中までグルグル同じところを廻っているみたいだ。
こんなことを考えていたら、指された。
「ハイ、先生、分かりません。ハイ、先生。帰ってから復習します。」
昼休み、何も無し。
午後の授業中特筆すべきこと何も無し。
結局、本能が告げている”違い”何か、見つからずに、学校が終った。どうやら、僕の本能が告げている”変化”は、学校のことではないようだ。
結局、友人達が宇宙人に入れ替わっている訳では無いことを納得する為に、3人分のゲームの代金を、こずかいから支払うだけで放課後も終った。どうやら、本能が告げている世界が変ったということは、僕が暮らし易い世界に眠っている内に変ってくれたとか、いうことでは無いらしいし、特に暮らし難くなったという訳でもないみたいだ。
本能が告げている、”世界の変化”というのは、何を指すのだろうか?
ニュースも、昨日と同じような、つまらないことを告げるだけ、だったし、少なくとも、目が覚めて、家へ返り夕飯を食べ、再び独りになるまで、昨日と違う点を見つけることは、出来なかった。
”本能”が、故障している、のだろうか? だとすると、僕の本能が壊れているということだから、僕は狂った部分を持ったまま、暮らさなければならない羽目に陥ってしまった、ということか?
/* 可能性と思索を追加 */
「違うよ。」と、僕の本能が告げた。
「君は、大人に成ったんだよ。」と。
終り